■ 医事紛争Q&A (平成8年11月16日 北海道医報掲載)
「被告の心得」その1 〜裁判で被告にされたらどうすればよいか〜
北海道医師会 顧問弁護士 黒 木 俊 郎
Q
開業して30年になりますが、最近、患者の遺族から医療事故裁判で訴えられてしまいました。これまで医療事故を起こさないよう細心の注意を払って診療してきましたので、小さなトラブルこそありましたが、大過なくやってきたのに、患者の死後、事情を知らない遺族から私が患者を殺した犯人のように言われて訴えられたことは、残念でなりません。そこで、次の点についてご教示下さい。
@裁判が開始されると、マスコミに知られて、新聞やテレビで報道されるのでは ないかと心配です。変な報道をされると病院の経営に支障があるので、何とか 報道されないようにする方法はありませんか。
A医学的理由のない無茶な訴訟を起こされて被告呼ばわりされることに対して、 反撃したいのですが、逆提訴など対抗手段は取れないものでしょうか。
B裁判には、どのような心構えで臨めばよいでしょう。
また、どんな準備が必要ですか。
C裁判には、毎回私が出頭しなければなりませんか。
A
「医療事故裁判で訴えられた」と言われますが、刑事、民事の2種類があります。前者は、刑事告訴のことで、告訴が受理されると警察や検察庁の捜査が開始され、最後は、検察庁が起訴、不起訴を決定します。医師が起訴されれば、刑事裁判が開始されますから、その時点では、マスコミでも報道され、大騒ぎになると覚悟しなければなりません。しかし、医療事故で遺族から刑事告訴されても、医師が起訴されることは、ほとんどありません。
後者は、民事裁判のことで、通常、損害賠償請求訴訟です。刑事告訴の場合、警察が告訴を受理しないことがありますが、民事の場合にはどんなに根拠薄弱ないかがわしい訴訟であっても、裁判所は一応受付をしますので、訴訟が開始されます。根拠薄弱な訴訟だから裁判所も分かってくれるだろうなどと楽観して、答弁書も出さずにいると敗訴することがありますので、注意しなければなりません。
さて、問@のマスコミ報道ですが、刑事裁判の場合、ニュースヴァリューがありますので、報道を阻止することは、ほとんど不可能です。民事裁判の場合は、損害賠償請求ですから公益性もなく、さほどニュースヴァリューもありませんので、対策を立てることができます。現在、医療事故訴訟は日常茶飯事ですから、普通の病院が訴えられても何も珍しくありません。マスコミが興味を示すのは、国、公立病院や大学病院の医療事故訴訟とか、患者取り違えや鉗子遺残などの世間の関心を集めそうな初歩的ミスの場合だけです。それ以外の平凡な医療事故が報道されるとすれば、原告側がマスコミに売り込みをした場合ですから、病院側からも正しい情報を流して、ニュースヴァリューがないことを知らせて上げれば、報道されないですむことが多いのです。 医療事故裁判ではマスコミ対策が大切で、被告側弁護士がマスコミ対策の中心的役割を果す必要があります。
次に、問Aですが、逆提訴まで考えておられるご心中はお察ししますが、逆提訴はお勧めできません。逆提訴とは、通常、被告が原告に対し、違法提訴による損害賠償請求訴訟を起こすことをいいます。医療事故訴訟の場合、遺族が何の医学的根拠もないのに医師を逆恨みして提訴し、判決で請求棄却(医師無責、患者敗訴)を宣告された場合でも、医学に無知だという理由で違法訴訟には該当しないと判断されることが多いのです。
【その2へ続く】